ザクとは違うのだよ、ザクとは!―ザグを探せ! マーティ・ニューマイヤー


機動戦士ガンダムに登場する、ジオン軍の軍事力を飛躍的に高めた画期的兵器である「ザク」……の話ではない。僕は店頭で見間違えたし、絶対に同じように空目したおじさん世代がいるはずだと睨んでいる。どうでもいい余談から入ってしまって申し訳ない。「ザク」ではなく「ザグ」。ジグザグのザグであり、競合他社を「ジグ」とするなら、僕らが進むべき方向は「ザグ」。すなわち、競合と全く違う方向の「過激な差別化」を探せ!と言っているのである。

本書はブランド戦略と経営戦略のキモを、非常にわかりやすく、かつ実践的に解説してくれている良書である。原書は「史上最高のビジネス書100選」にも選出されているらしい。ブランド戦略の大家であるデービッド・A・アーカー教授が「17段階の手順は実用的で、文章も愉快。表現方法だけで値段分の価値がある。」との推薦文を寄せているが、翻訳された本書においても、その価値は全く損なわれていない。

デービッド・A・アーカー教授をして実用的な17段階の手順と言わしめたプロセスは、本書のPART2に該当する。

CHECKPOINT1 あなたたちは何者か?
CHECKPOINT2 何をしているのか?
CHECKPOINT3 ビジョンは何か?
CHECKPOINT4 捕らえているトレンドは?
CHECKPOINT5 ブランドを取り巻く状況は?
CHECKPOINT6 あなたたちの「唯一性」とは?
CHECKPOINT7 足し引きすべきものは何か?
CHECKPOINT8 ブランドを愛するのは誰か
CHECKPOINT9 敵は誰か?
CHECKPOINT10 何と呼ばれているか? 
CHECKPOINT11 ブランドをどう説明するか?
CHECKPOINT12 メッセージをどう広めるか?
CHECKPOINT13 人々とどうつながりを持つか?
CHECKPOINT14 顧客がする体験は?
CHECKPOINT15 顧客ロイヤルティをどのように獲得するか?
CHECKPOINT16 成功をどう拡張するか?
CHECKPOINT17 ポートフォリオをどのように守るか?

特に15までが一つのブランドを築き上げていくに当たっての重要なポイントになる。本書では、各ポイントの解説においては、実際の世の中の様々なブランドの例や先行理論を用いて説明する。そして、その解説を踏まえながら、同時進行で、架空のワインバーを立ち上げる想定で、実践例を展開していくのだが、このバランスが絶妙。気をつけていないとあっという間に流し読みしてしまう危険性すらあるので、是非本書に綴じ込まれているチェックシートも活用しながら、自分自身に当てはめて読んでもらいたい。

実は本書の巻末には、読者が手っ取り早く復習できるようにと、ご丁寧にも著者自身による「厳選ポイント集」が付けられているので、ここでは引用は極力しないようにしておきたいのだが、どうしても一つだけ、引用させていただきたい。CHECKPOINT6 あなたたちの「唯一性」とは?より

「次の文章を完成させてみよう。「私たちのブランドは、(   )、唯一の(   )である」。1つ目の空欄では、ザグの内容を説明して欲しい。2つ目の空欄には、カテゴリーの名前を入れて欲しい。簡単に表現できなかったり、「唯一」という言葉が使えなかったりする場合は、ザグがないことになる。(p.78)」

どんなに小さくても、逆に小さいからこそ、こうした簡潔な文章で表現できることが大切。人は、知らない人が語る知らない内容を長々と読んだり聞いたりしてくれないわけで。これは、自分のブログを説明する際にも常に念頭に置いて考えたい一文として、胆に銘じておきたい。ちなみに、本書の実践例である架空のワインバーで考えられた一文は「私たちのブランドは、ワインの学びを通じてコミュニティを築き上げる『唯一』のワインバー・チェーンである」(p.79)。なんだかこのワインバー・チェーンに興味がわいてくる一文ではないだろうか。こうした想いを想起させることこそが、ブランドの真髄なのだと思う。

本書には、厳選ポイント集のほか、実際の企業・商品に関する辛口ネーミング批評があったり、用語解説にオススメ本まで付けられている。ここに著者が本当に「ブランド」というものを読者に理解してもらい、世の中に真の意味での「ブランド」が増えていくことを期待する気持ちが表れているように感じる。これも本書が良書であることの一要因であろう。特に辛口ネーミング批評は、付録的な取扱いでは勿体無いほどの充実ぶり。

本書は、これから開業しようと思っている人には、まさにうってつけの一冊。最近では、小さな会社やお店に関するブランディングの本も多く出ているけれど、本書のステップに沿って考えるという時間を是非とってみて欲しい。
また、企業においてブランディングに係わっている人にとっても、理論的な部分など目新しい箇所は少ないかもしれないけれど、もう一度自分自身の仕事を見つめ直す意味でも、目を通すに価する本だと思われる。

ザクとは違うのだよ、ザクとは!」とランバ・ラルが評したグフは、実はそれほどに「ザグ」にはなっていなかったような(ry…。

目次
プロローグ
PART1 ザグを探す
PART2 ザグをデザインする
PART3 ザグを一新する

ザグを探せ! 最強のブランドをつくるために
千葉 敏生
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by Taka@中小企業診断士(業務休止中)
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