現代版理想のリーダー像―リーダーは半歩前を歩け 姜尚中


本書は、政治学者である著者がリーダーシップとは何かということについて考察するところを書いているものであり、次のような前提に立っている。


リーダーシップは、生まれつき与えられた才能ではなく、「自分もやってみよう」という意欲、「こうあったらいいな」という理想、あるいは失敗や成功の経験――、そういったものを通して、基本的に誰もが獲得できるものでなければなりません。(p.63)


まずはタイトルにある「半歩前」というワードがミソ。


例えば僕らがイメージしやすいリーダーというと、大きな理想を掲げて人々を導いていくタイプであり、経営者であればジャック・ウェルチとか、松下幸之助とかそういったタイプの方であったり、本書では革命家のチェ・ゲバラとか毛沢東レーニンといった例も挙げられている。しかし、これらの一般的にイメージされる「リーダー」は、ほぼ「カリスマ」と呼ばれる人たちであり、「半歩前」という言い方に準えると、「十歩前」を行くタイプのリーダーだという。


これに対しての「半歩前」。政治家であった金元大統領であれば、「ぜったいに国民の手を離さず、国民がついてこなければ、「半歩」下がって彼らの中に入り、わかってもらえるまで説得して、同意が得られたら、また「半歩」先を行く」(p.35)、というイメージらしい。そうやって、何を目指したらいいのか、明確なビジョンを示すことができ、将来に亘って持続可能な成長に向かっていくようなリーダーが、現代のリーダー像だと本書は説き、現代に「必要なのは、超人的なパワーではなく、周囲とわずかに前後しながら、人々を引っ張っていくようなリーダー」(p.45)だと言っている。


であればこそ、誰もがリーダーになりえる、なる可能性があり、僕は自信を持ってリーダーになるために前を見据えて取り組めばいい。


では、そうしたリーダーシップを発揮する人物に必要な素養とは何だろうか。僕が身につけているべきなのはどういったことか。本書では、「7つのリーダー・パワー」を提示してくれている。

7つのリーダー・パワー
 その1  先見力
 その2  目標設定力
 その3  動員力
 その4  コミュニケーション力
 その5  マネジメント力
 その6  判断力
 その7  決断力

むむっ・・・と思ってしまうものもあれば、先の見えそうなものもある。ちなみに姜さんのセルフチェックでは、自信があるのは「先見力」と「判断力」の2つだけだそうで。


僕が「むむっ・・・」と思ってしまう、すなわち最も身につけ難いのではないかと直感的に思ったのが「動員力」。姜さんも、実はこれはカリスマ性に近いものであり、誰でも身につけられるかというとそうではない面もあると認めている。あったらいいけれど、なくても他の力で補っていくことでリーダーとして立っていくことはできると解釈し、当面は気にしないことにする。ちなみに、「動員力」といえば小泉純一郎元首相だが、姜さんは小泉元首相については「リーダー」ではなく「アイドル」だとしているので、その点に興味のある方は本書第三章に詳しいので、是非手に取っていただきたい。


その他の力については、それぞれをテーマに様々なビジネス書が、大量に発刊されている。書物から学べるものがあるのであれば、日々書物に触れている僕にとってはアドバンテージだが、その中でも「マネジメント力」と「判断力」は芽がありそう。その他は通知表でいえば「がんばりましょう」というところか・・・。


さて、その「判断力」の中で、姜さんは、書物に学ぶような学問的なインテリジェンスを「「干もの」の知性」、「人文知」と呼び、一方、刻々と動いている現実の活動から得られる、経験則や生きた知識、あるいはそれに基づくところの状況判断力のことを「「生もの」の知性」と呼んでいる。これら二つの知性が「判断力」の源泉になるのであり、生ものの知性がないと話にならないことは事実だけれど、干ものの知性も組み合わされてこそ、リーダーの判断力は無敵になると説いている。


そう、僕らが何でビジネス書を読み漁るのかということを考えると、目先の問題解決のためという面もあるかもしれないけれど、リーダーとして、ビジネスや組織を引っ張っていける人材になる為ということも大きな目標としてあるのではないだろうか。ビジネス書ばかり読んで・・・という周囲の目が気になることもあったかもしれないけれど、姜さんの次の言葉を励みにしてはどうだろう。


「ちょっと皮肉を込めて言いますと、私は、日本のいまのリーダーたちにいちばん欠如しているのは、じつは、この部分ではないかとひそかに思ったりもしています。」(p.84)※判断力の項の結びの一文であり、「この部分」というのは判断力についての解説の中で、生ものと干ものの知性の組み合わせの重要性を説いている部分を指す、と僕は理解している。


ちょっと話がそれてしまったが、上記の7つの力のうち、リーダーにとって大切な力に敢えて順番をつけるとすると、恐らく「決断力」が一番にくる。(個人的には「がんばりましょう」な項目なのだが・・・)


姜さんはこの部分を「孤独力」とも言い換えている。よく経営者は孤独だと言われることがあるけれど、まさにその通りであり、孤独に耐えながら、責任ある決断を下し、みなにビジョンを示し、コミュニケーションをとりながら導いていくという姿こそ、リーダーシップを発揮する経営者像であろう。そして、ここで繰り返されているのは、初志貫徹、首尾一貫した確たる信念を持っていることが、リーダーにとって最も大切なことだという主張であり、僕の想いとピタリと重なるのである。


本書は、リーダーとしての自分の姿を思い描き、求められるリーダーとして立つために、今日から出来ることに取り組んでいく指針を示してくれた。


次代のリーダーを目指すビジネスパーソンには是非一読してもらいたい一冊であり、既にリーダーとしての立場にある人にも、今一度ご自身のリーダーとしてのあり方を振り返っていただくために手にとっていただきたい一冊としてお薦めしたい。

目次
第一章 カギは「半歩前」だ――そろそろ、ニュー・モデル
第二章 あなたも「リーダー」になれる?――リーダーシップ/ビジネス篇
第三章 「見てるだけ」ではダメです――リーダーシップ/政治篇
第四章 【対談】幸いなる邂逅――アジアのリーダー、金大中氏に聞く
終章  歴史と勝負する――「責任力」もしくは「信じる力」

リーダーは半歩前を歩け (集英社新書)
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by Taka@中小企業診断士(業務休止中)
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